いつも、こうしん堂ブログ「お坊さんの1分説法」を
お読みくださりありがとうございます。
和歌山でも少しずつ紅葉を感じる季節になりました。
秋という季節には深みがあり、
成熟したものごとに例えられることが多いようですが、
今日は『雑宝蔵経』より、こんな話を紹介させていただきます。
(一部抜粋、加筆しています)
昔、インドに「老人を捨てる」という習慣のある国がありました。
この国では、どんな老人であれ、みんな遠くへ捨てることになっていました。
しかし、この彼は大変親孝行だったので、父親を捨てることができず、
床下に穴を掘って隠し部屋をつくり、そこに住まわせて世話をしていました。
ある日のこと、この国の王のところへ神が現れ、
二匹の蛇を連れてきて、こう言いいました。
「この蛇のどちらが雄でどちらが雌かわかるだろうか。
もし1週間以内にそれがわかれば、あなたの国は安定し立派に栄えるだろう。
だがもしわからなかったら、この国はすぐに滅びることになる。」
王は恐怖に怯えて悩み、臣下を集めて協議をしました。
しかし、蛇の雌雄を判断できる者はおらず、困った王は
「蛇の雌雄を判断できたものには褒美を与える」
と、国中にお触れを出しました。
それを見た彼が、家にかくまっている父にそのことを話すと
「そんなのは簡単だ。柔らかいものの上に乗せて
暴れまわるのが雄で、じっとしているのが雌だ。」と答えました。
彼は急いで王のところに行き、そのことを告げると
王が神に話し、まさしく正解でありました。
神はそこで次の問題を王に出しました。
「ここに、大きさも形も同じ2頭の馬がいる。
どちらが親でどちらが子かわかるだろうか。」
王と臣下が相談しましたが、また答えは出ませんでした。
そこでまた国中から答えをつのることにしました。
彼がまた父にその話をすると、
「馬に草を食べさせればわかる。親は子に草を与えようとする。」
と言いました。
それもまた正解でした。
神は大いに喜び、その国の安全と繁栄を約束して帰られました。
王は歓喜し、答えをもたらした彼にこう聞きました。
「あなたのあかげでこの国は救われた。
あの答えはあなたの知恵によるものか。
それとも誰かに教わったものか。」
すると彼は、こう言いました。
「いいえ、私の知恵ではありません。
私が何を話してもお許しくださるなら、正直に申し上げます。」
王「そなたに重罪があったとしても、罰することはないだろう。」
彼「では申し上げます。
この国は法律によって老人を捨てることになっていますが
実は私には年老いた父がいます。しかし育ててくれた恩を思うと
とても捨てることなどできません。
そこで法を犯して家に地下部屋をつくり、
父をかくして世話をしてきました。
今回の答えはすべてその父に教えてもらったのです。
王さま、お願いがあります。どうか老人を大切に養えるよう
国の法律を変えてください。」
王は再び歓喜し、こう言いました。
「わかった。これまでの法律はまちがっていた。
今後は老人を捨てることを禁じる。
老人は国の宝として大切に敬い、孝養をつくさなかればならない。」
お釈迦さまが「孝養父母(きょうようぶも=親孝行のこと)」
の大切さを伝えるために説いた、たとえ話だとされていますが、
日本にも「うば捨て山」ということばがあるように
昔、そのような習慣があった国は実際に一部あるようです。
しかし、先人の知恵が国や人を救うことももちろんあります。
そもそも、現在の世界があるのは、先人たちのおかげです。
紅葉を美しいと感じる私たちの心には、
先人たちや、収穫・与えられたものに感謝をするという性質も
きっと備わっているだろうと思います。
忙しい時や、大変な時であっても、忘れないようにしたいですね。